フリーランスが開業届を出すメリットとデメリット。タイミングはいつ?金額の目安は?出さないとどうなるの?

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目次

フリーランスは開業届を出さないといけないの?

フリーランスにとって開業届は、出さなければいけない届出です。しかし、厳しい罰則などはありません。そのため開業届を出さずに仕事を続けているという方も多いのではないでしょうか?

フリーランスとは

フリーランスとは、団体や会社などの法人組織に所属せず、個人で仕事を請け負う働き方(職業)を指します。個人で働くフリーランスが、国税庁が運営する税務署に「開業届」を提出すると、国から個人事業主として扱われます。フリーランスは個人事業主となって定められた申請をすると、国からの支援(給付金など)を受け取れたり、税金を収める際に一定額が控除されたりします。開業届はフリーランスにとってメリットの大きい手続きです。しかし、フリーランスの置かれた状況によっては、出さない方が良いケースもあります。この記事では、開業届を出すタイミング、メリットとデメリットについて詳しく解説します。

「開業届」とは何のこと?

開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。個人が国(国税庁の税務署)へ、事業の開始を報告する書類です。開業届の提出は対象者の義務ですが、提出しなくても罰則はありません。対象者になったら可能な範囲で速やかに作成(記入)して提出しましょう。

開業届の対象者とは?

開業届の提出が義務となる対象者は、主に「継続的に事業所得が生じる事業を開始した人」です。不用品をネットで販売し、1ヶ月で5万円の所得があったとしても、継続しない場合は事業とはなりません。会社から独立して起業する場合や、クラウドソーシングサイトで継続して活動する場合などが該当します。

開業届の必要書類は?

開業届は国税庁のホームページからダウンロードできます(※1)。あるいは最寄りの(事業所の住所を管轄する)税務署へ行くとフォーマット(紙)をもらえます。

※1:国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書

開業届を出す期限は?

開業届は事業を開始した日から1ヶ月以内です。また、開業日時点で所得が少なくても問題ありません。所得が無くても、経費の方が多く赤字であっても、事業を開始して継続していれば、開業届は提出できます。そのためフリーランスを目指そうと決めた段階で提出することも可能です。

開業届を提出する場所はどこ?

開業した場所(納税地)を所轄する税務署に直接持って行くか郵送します。郵送する場合は、切手を貼った長形3号サイズの返信用封筒を同封しておきましょう。後日、受領印(収受員)を押された開業届の控えが返送されます。このとき開業届けのコピーを控え分として同封しないと、控えは送られてきません。必ず同封しましょう。

開業届けに手数料はかかるの?

開業届けに手数料はかかりません。無料で手続きが可能です。

開業届を出すメリットとは?

開業届のメリットを5つ紹介します。最大のメリットは節税効果です。

1.青色申告で特別控除が利用できる

開業届で国から個人事業主として認められると、青色申告承認申請書を提出することで青色申告が可能になります。青色申告には、最大65万円の青色申告特別控除があるため、所得65万円にかかる税金が節税できます。

この大きな節税メリットを得るために、開業届と青色申告承認申請書は同時に提出する傾向があります。

また、青色申告には30万円未満の減価償却資産を購入年に一括計上できるというメリットがあります。減価償却は本来、固定資産を分割して計上することで、固定資産の購入により本業での儲けが分かりづらくなることを防ぐものです。しかし、減価償却すると実際のお金の流れと帳簿上のお金の流れに乖離が生まれ、帳簿上は十分な利益があるのに、実際のキャッシュフローは厳しい状況にあるといったことが発生してしまうのです。しかし、30万円未満という制限はあるものの、購入年に一括計上できればキャッシュフローが厳しい状況をきちんと帳簿にも反映させられるため、現実に即した節税(課税所得の圧縮)ができるのです。

2.赤字を繰り越せる

開業直後のフリーランスは、収入が安定していなかったり、開業準備で経費が増えたりするため、年間でみると赤字になるケースもあります。しかし、開業届を出し青色申告が可能になっていれば、この赤字を繰越すことが可能です。翌年所得が大きく増えた場合、赤字分が控除されるため所得税を節税できるのです。赤字も繰越すことで節税に役立つため、個人事業主の特典を無駄なく活用しましょう。

ただし、赤字繰越ができるのは青色申告だけです。白色申告では赤字繰越ができませんので注意して下さい。

3.屋号付き銀行口座の開設が可能になる

フリーランスとしての信用度が大きく上がる、屋号付きの銀行口座が開設できます。開設手続きには、屋号が記載された開業届の控えが必要になります。ほかにも、融資を受ける際や事務所を借りる際に信用を得やすいこともあるでしょう。

4.法人用クレジットカードが作れる

開業届を提出することで、個人事業主となるため、ビジネス用のクレジットカードが作れるようになります。各クレジットカード会社によって、ポイント還元など様々な特典が用意されています。私用とビジネス用でクレジットカードを分けることで、確定申告の帳簿付けも簡単になります。

5.小規模企業共済に加入できる

開業届を提出していると、小規模企業共済への加入資格を得られます。小規模企業共済に加入していれば、退職金やフリーランスの廃業時に給付金を受け取れます。また、掛け金は所得控除の対象になります。

6.個人事業主向けの傷害保険に加入できる

フリーランスは労働基準法や労働契約法上の労働者にあたらないため、労災保険に加入できません。しかし、一定の条件を満たすとフリーランスでも加入できる傷害保険(という名の労災保険のような保証内容の保険)に加入できるのです。その条件として個人事業主であること。つまり、開業届を提出している必要があるのです。

傷害保険に加入すると、次のようなメリット(一例)があります。

  • ケガの補償(24時間、業務内外問わず)
  • 福利厚生(人間ドック受診の補助金など)
  • 家族従事者も加入可能
  • 死亡・障害保証:最高1,000万円
  • 入院日額:5,000円
  • 通院日額:2,000円

上記のような手厚い保障を受けるためには、個人事業主になる必要があるのです。

開業届を出すデメリットとは?

開業届を出すデメリットは3つあります。

1.失業保険の受給資格を失う

最も大きな注意点は、開業すると失業保険の受給資格を失うことです。失業保険を受給している場合は、ハローワークに開業したことを報告する義務があり、報告後は失業保険が受給できなくなります。

しかし、本来失業保険(失業給付)は「法律上の労働者として」再就職する人に向けた制度であり、決して独立直後の稼げないフリーランスのための制度ではありません。基本的な制度の趣旨をまず理解しましょう。

それでも「失業給付を受け取りたい」という方は開業届の提出を意図的に遅らせることも可能です。しかし、フリーランスという生き方は自分で仕事を取ってくるところから、納品して売上を回収するところまですべてが自己責任です。つまり、いくら独立直後とはいえ売上が立たずに生活できなくなったとしても、自己責任なのです。これからフリーランスの世界で生きていこうと本気で思うのなら失業給付などあてにせず、自分の力で稼ぎましょう。

2.扶養に入れなくなる

家族の社会保険の扶養に入っている場合は、開業することで扶養に入れなくなる可能性があります。社会保険の種類や所得によって基準が変わるため、開業する前に確認しておく必要があります。

3.帳簿の保存義務

開業届のメリットは確定申告の節税です。確定申告は帳簿の保存が義務になります。会計ソフトやクラウドサービス、手書きで帳簿をつけて保存します。青色申告には複式簿記の知識が必要で手間と経費がかかります。ただし、会計ソフトをつかえば、必ずしも簿記の知識がなくても確定申告は可能です。売上や経費の数字をきちんと整理し、いずれもバウチャーとなる書類(請求書や領収書、レシートなど)を整理しておくようにしましょう。

また、最大65万円の青色申告特別控除を適用されるには、確定申告の申告書のほかに貸借対照表を作成必要があり、さらに電子申請(e-tax)する必要があります。

開業届を出さないことにリスクはあるのか

開業届は提出が義務ですが、出さなくても罰則はありません。しかし、出さないリスクもあるため把握しておきましょう。

開業届を出さないとどうなるの?

1.節税ができない
2.クレジットカードが作れない
3.屋号での銀行口座が開設できない
4.助成金・補助金の申請ができない
5.小規模企業共済に加入できない

開業届を出さない状態のフリーランスは信用度が低くなり、できないことが増えます。
組織に所属しないフリーランスは、開業届で国から個人事業主として認められることで、社会的信用度が上がります。また、国からの助成金や補助金の支給対象になります。

1.節税できない

開業届を提出しないで確定申告を行う場合、自動的に白色申告を選ぶことになります。たしかに白色申告の方が帳簿付けは楽(単純)ですが、会計ソフトを使用すればそのメリットは薄くなるものです。それより、青色申告にして最大65万円の青色申告特別控除を利用する方が大きなメリットを得られます。

事業所得(売上−経費)はプラスでも、控除を計算に含めて課税所得を算出するとマイナスになる場合があります。この場合、赤字が繰越できるだけでなく、所得税免除(原生徴収分は返還)、国民健康保険の所得割分免除、国民年金の納付免除(一部、あるいは全部)など多くのメリットを享受できます。本業の儲けが同じなら、控除額は大きいに越したことはないのです。

2.クレジットカードが作れない

フリーランスとして活動するだけなら屋号でクレジットカードを作れないことはそれほどデメリットではありません。しかし、今後法人化を目指しているのであれば今からクレジットカードを分けておくのはメリットがあるでしょう。実際、会計ソフトを使用して経費申請(金額情報を共有)する場合も、事業用のクレジットカードがあれば生活費との仕訳が必要ないため、帳簿処理が楽になります。

3.屋号での銀行口座が解説できない

屋号の銀行口座もクレジットカードと同様です。フリーランスとして活動するだけなら屋号の銀行口座がなくてもそれほど困りませんが、法人化を目指すなら今から用意しておいてもよいでしょう。

4.助成金・補助金の申請ができない

通常時、フリーランスが利用できる助成金や補助金はそれほどありません。しかし、新型コロナウイルス蔓延時にあった持続化給付金はフリーランスも受給できたようです。しかし、その条件は個人事業主であることでした。今後も未曾有の経済状況となった場合、開業届を提出して個人事業主になっておかないと受給できないお金があると十分想定できます。

5.小規模企業共済に加入できない

フリーランスは退職金がありません。しかし、小規模企業共済に加入しておけば廃業時にまとまったお金を受け取れるのです。しかも掛け金を全額控除できるため、節税にもなります。しかし、小規模企業共済に加入するには個人事業主になる必要があるのです。

出した方が良い人、出さない方が良い人

出した方が良い人

開業届の提出は国が決めた義務であるため、基本的には提出対象者になったら出した方が良いといえます。提出することで信用度が上がる、節税効果のある青色申告ができるなど、多くのメリットを利用できます。フリーランスで継続して活動する気持ちがある場合は、所得に関わらず出した方が良いケースが多くなります。

出さない方が良い人

開業届を出すことで失業給付の受給資格が失われるため、失業給付を受給する予定がある場合や現在受給している人は出さない方が良いといえます。また、家族の扶養に入っている場合も、開業することで扶養から外れるケースもあるため注意が必要です。失業手当や扶養のメリットと、開業届の節税のメリットを比較して検討しましょう。

「青色申告」「白色申告」って何?

確定申告とは、年間の所得を国に報告し、税額を確定させる手続きです。確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があります。白色申告と青色申告は、税金の優遇措置の有無が大きな違いと言えます。

白色申告とは

単式簿記のため簡単な帳簿で申告が可能です。申告での必要書類も少なく手続きが簡単ですが、節税効果はありません

青色申告とは

複式簿記のため専門的な知識が必要ですが、会計ソフトなどを利用することで、帳簿付けの負担は軽くすることが可能です。青色申告する前には、青色申告承認申請書と開業届の提出が必要になります。最大65万円の青色申告特別控除が利用できます。他にも、赤字の3年間繰越など節税効果が高い申告方法です。青色申告を利用する場合は、「所得税の青色申告承認申請書」を提出するほかに、開業届の『「青色申告承認申請中」又は「青色申告の取りやめ届出書」』の「有」の欄にチェックを入れる必要があります。

所得とは?

確定申告の基準となるのは、所得です。所得とは事業の収入から経費を引いた金額を指します。具体的に言うと、収入から経費を引いた額から、さらに控除を引いた額が「課税所得」となります。所得税はこの課税所得に税率を乗じて計算されるのです。

控除には次のような種類があります。

  • 生命保険料控除
  • 医療費控除
  • 住宅ローン控除
  • 特別支出控除
  • 社会保険料控除
  • 小規模企業共済等掛金控除
  • 地震保険料控除
  • 寡婦控除
  • ひとり親控除
  • 勤労学生控除
  • 障害者控除
  • 配偶者控除
  • 配偶者特別控除
  • 扶養控除
  • 基礎控除
  • 雑損控除
  • 寄付金控除
  • セルフメディケーション税制(令和8年12月31日まで)

個人事業主の事業年度は1月〜12月となります。そのため、同じ年の中で会社員の時期と個人事業主の時期があれば、給与額に応じて給与所得控除も利用できます。

確定申告では使える経費や控除を知っている人だけが得する仕組みとなっています。会社員のころのように教えてくれる経理担当者はいませんので、自分で知識を得るようにしましょう。

確定申告と開業届はいくらから?

専業のフリーランスは所得が、年間48万円をこえた場合、確定申告が義務になります。副業のフリーランスは、本業の給与以外の所得が年間20万円をこえると、確定申告の義務が発生します。この金額以下の場合には、確定申告は不要になります。

つまり、確定申告が義務になる所得の基準が、開業届けを出す所得金額の目安にもなります。専業フリーランスであれば毎月の所得が4万円以上、副業フリーランスであれば、毎月の所得が約16,000円で確定申告が必要になります。確定申告の目安を開業のタイミングと考えることもできます。

ただし、確定申告(所得税の申請)は不要でも別途住民税の申請が必要になることがあります。確定申告不要の場合は、課税所得の金額をお住まいの自治体の役所に連絡し、住民税申請の必要があるか確認しましょう。場合によっては「住民税を納税する必要なし」と判断されることもあります。

開業届を出すタイミング

開業届を出すタイミングの正解はいつでしょうか?タイミングは青色申告承認申請書の提出期限も考慮することが大切です。

青色申告を利用するには、申告をする年の前年、もしくは申告する年の1月15日までに開業届を提出し、3月31日までに青色申告申請書を提出することが原則です。

例外として、1月16日以降に開業した場合は、2ヶ月以内に青色申告承認申請書を提出すれば、提出した年から青色申告が可能です。

しかし、7月頃に売上が急激に増加して、8月に遅れて開業届と青色申告承認申請書を出した場合、青色申告は開業日以降が対象になります。開業日前の約半年間の収入は雑所得として申告することになります。

失業給付の受給や扶養など特別な理由がなければ、フリーランスになると決めた段階で、開業届と青色申告申請書を提出しておく方が無駄なく青色申告の特典を利用できます。

開業届を提出した後にすること

開業届を提出した後は、重要な手続きを優先して行い、その後は確定申告に必要な帳簿作成のために、毎日収支を記帳しながら管理します。

健康保険と国民年金への加入を最優先

会社員を辞めてフリーランスとして開業した場合は、最初に健康保険と国民年金へ加入します。実は、この保険への加入は非常に期限が短いため、最優先で手続きする必要があります。
1.国民健康保険への加入(退職後14日以内)
2.国民年金への加入(国民健康保険と同時に手続き)
3.確定申告のため毎日記帳
4.レシートの保管
5.見積書、請求書などの作成

フリーランスとして独立した場合、必ず国民健康保険に加入しないといけないわけではありません。会社員から独立した場合は、退職前の健康保険(社保)に継続して加入することもできますし、文芸美術国民健康保険(文美国保)など特定の業種の人だけで加入できる健康保険もあります。年間保険額や保証内容などを総合的に勘案して、どの健康保険に加入するか検討しましょう。ただし、退職前の健康保険を任意継続で利用する場合は、資格喪失後14日以内に加入する必要があります。

国民年金の加入についても注意点があります。会社員から独立した場合、離職票がもらえます。離職票があると所得がゼロとみなされ国民年金の納付が一部免除、あるいは全額免除となる可能性があります。もちろん受給額にも影響しますが、老後に生活に困らないほどの年金をもらえる確率はほぼゼロの近いでしょう(2022年現在の国民年金の平均受給額は約56,000円/月)。それであればキャッシュフローが厳しい現在のお金を手元に残し、老後の生活資金は稼いで貯める、あるいはiDeCoなどで積み立てる方が賢明な判断かもしれません。

開業準備期間のレシートも保管する

開業しようと準備を始めた段階から、事業用に購入した物のレシートは経費になるため保管しましょう。開業準備としての正当な理由があれば期限はありません。パソコンや参考書籍、文具などの購入レシートをまとめ、ネット購入の場合は履歴から領収書を保存しておきましょう。ただし、適格請求書発行事業者になっている場合、令和5年10月以降のレシートについては、適格簡易請求書(インボイス番号付きのレシート)と通常のレシートに分けて保存する必要があります。

事業を継続するなら開業届を提出しよう

継続して事業を行う予定であれば、開業届を提出しましょう。開業届には節税や信頼度のアップなど大きなメリットがあるため、その特典を活用するためにも早めの提出がおすすめです。また、国が個人事業主であることを証明する開業届は、控えを使用する場面も多くあります。開業届の提出の際には、必ず控えを受け取り大切に保管しておきましょう。

まとめ

開業届に関わる確定申告などは、関連制度の改正などで基準が変更になる場合もあります。毎年3月の確定申告をする前に改正の最新情報と書き方を確認しましょう。

投稿者プロフィール

廣石健悟
廣石健悟
12年の会社員経験(メーカーの機械設計など)を経てフリーライターになりました。会社員の良さ、フリーランスの良さそれぞれを実際に体験しています。記事執筆の他にインタビュー、取材(写真撮影含む)もできます。

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