フリーランスが加入できるのは国民健康保険だけではない!制度を知って仕事の幅を広げよう

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フリーランスは会社員より働き方の自由度が高いという特徴がありますが、福利厚生などゆとりある働き方のための仕組みがありません。また健康保険は原則として国民健康保険となり、会社員のように互助会からの助成制度もないため、万が一に備え多くの選択肢を用意しておきたいところです。

フリーランスが入れる保険はどれ

フリーランスは、健康保険上は個人事業主という取り扱いにあたります。そのため原則として、会社の健康保険をはじめとした被用者保険には加入できません。

フリーランスが加入できる保険として、国民健康保険に加え家族の健康保険組合に被扶養者として加入する方法があります。また企業を退職した直後であれば、健康保険に任意加入を継続することも可能です。

国民健康保険への加入

特段の事情がない限り、フリーランスが加入できる健康保険は市区町村が保険者となる国民健康保険です。

国民健康保険の加入は原則として世帯単位で、同居家族が会社員等でない場合は他の世帯員と一緒に加入することになります。国民健康保険税(以下「国保税」と表記します)の額は自治体によって計算方法や金額が異なるため、自治体の窓口やホームページで確認してみましょう。

なお国保税は、国民年金保険料とともに保険料控除として所得控除の対象となります。確定申告をする際は、忘れずに計上しましょう。

扶養家族として健康保険組合に加入する

企業で就労している家族がいる場合は、加入している健康保険組合に扶養家族として加入することもできます。

扶養対象となる年収130万円以下の人に限られますが、国民健康保険などに個人で加入する場合よりも保険料をおさえることが可能です。

退職直後であれば健康保険の任意継続もできる

会社員や公務員など、雇用されていた人がフリーランスになる場合、国民健康保険に加入せず所属していた会社の健康保険を任意継続することも可能です。

国民健康保険の場合、退職した年は前年所得が国保税の算定に反映されるため、税額が予想以上に高くなる場合があります。特にフリーランスになってまもない頃は収入が十分でないこともあり、国保税の支払いが困難になることも考えられます。

任意継続では企業負担分がなくなるという点に注意しなければなりませんが、任意継続の健康保険料算定では標準報酬額の上限が30万円に設定されているため、国民健康保険よりも低額な保険料ですむこともあります。

フリーランスが入れる健康保険とは

通常の国民健康保険は市区町村が保険者ですが、国民健康保険組合が保険者となる国民健康保険もあります。こちらは文芸や美術・著作などの活動に従事し、組合加盟団体に入っていることが条件となります。

国保税と違い、保険料は収入にかかわらず一律となっています。そのため、該当する職種で高所得が見込める場合は。通常の国民健康保険より特になることもあります。

健康保険以外の保険も検討しよう

フリーランスとして働く場合、病気やケガに対する健康保険はもちろんのこと、フリーランスならではのリスクに備え民間の保険サービスにも加入することをおすすめします。

特にウイルス感染や機器紛失による機密情報の漏洩、納期遅延や納品物のミスによるクライアント企業の損害など、フリーランスに対しても損害賠償を請求される可能性があります。

企業の損害ということで、個人の支払能力を超える賠償額になるケースもあるため、万が一のトラブルに備えるという意味でも、健康保険以外の保険も必ずチェックしておきましょう。

フリーランスを専門にサポートする保険は、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下「フリーランス協会」)や株式会社PE-BANK(以下「PE-BANK」)などから提供されています。

フリーランス協会にはフリーランスや個人事業主が加入でき、年会費1万円で一般会員になると「ベネフィットプラン」へ自動的に加入します。年会費は確定申告の際、事業に必要な経費として計上することができます。

フリーランス向けの様々なサービスを割引価格で利用できるだけではなく、付帯する賠償責任保険では、情報漏洩や納期遅延、業務中の対物・対人事故などに対して補償が適用されます。

また病気や介護で働けないときの「所得保障プラン」や、報酬トラブルが生じた際弁護士サポートを受けられる「フリーガル」など、任意加入のサービスメニューも充実しています。

PE-BANKはITエンジニアを対象とするサービスで、スキルアップの教育や確定申告サポートに加え、フリーランス向け福利厚生のサービスメニューがそろっています。

また共済会制度では健康やビジネスに対する手厚いサポートとして、病気やケガに備えた「所得保障手当」や「起業支援」といったメニューもラインナップされています。

フリーランスが加入できない保険

公的年金の中には被雇用者を対象としている保険があり、フリーランスはこれらに加入することはできません。

雇用保険

雇用保険は企業に雇用されて働く人が加入できる保険であるため、フリーランスや個人事業主は加入できません。フリーランスや個人事業主には「就職」「退職」といった概念がなく、雇用保険の概念からは外れるためでしょう。

ちなみに会社員からフリーランスになる場合、自主退職でも一定期間を経過すると失業給付(失業保険)をもらえます。しかし、本来の趣旨に照らし合わせると失業給付は次の就職先が決まるまでの就職活動中の生活のための資金です。そのため、失業給付をもらうには、就職活動を継続的に行う必要があります。

しかし、中にはフリーランスになる予定なのに失業給付を活用しながら就職活動を行ったり、公共職業安定所(ハローワーク)の職業訓練を受けたりする方も一部います。ルールに反していなくても趣旨から外れていることは理解しましょう。なお、失業給付は開業届を提出するともらえなくなります。

労災保険(一部職種は加入可能)

労災保険は労働中の災害(ケガや病気)を補償するための保険です。労災保険の加入者は事業主であるため、基本的にフリーランスは加入できません。しかし、近年は労災保険の対象者が拡大された結果、フリーランスであってもITや運輸業などを営む一部の職種では加入できるようになりました(特別加入)。また、厚生労働省はすべてのフリーランスが労災保険に加入できるよう検討しているようです(※1)。

会社で労働災害が起きると、労働基準監督署(以下、労基署)に連絡しなければなりません。また、起こってしまった災害に対する再発防止策を検討する必要もあります。ただ、フリーランス一人ひとりの労災に労基署がどこまで対応できるのか、フリーランスが十分な再発防止策の検討を行うのか、仕事とプライベートのボーダーが曖昧なフリーランスのケガをどのようにして「仕事中」(あるいは営業中)と認定するのかなど、実際の運用に課題はありそうです。

※1:日本経済新聞「労災保険、全フリーランスが加入可能に 対象270万人へ

フリーランスにおすすめの保険

フリーランスの不安を少しでもなくせる保険はいくつかあります。

フリーランス協会所得補償制度

フリーランス協会が会員向けに提供している「フリーランス協会所得補償制度」。病気やケガで働けないときの補償、ケガの入院費や通院費などの補償、介護サポートなど、フリーランスが直面するさまざまな問題に応じて、生活が困窮しないようにと考えられている保険です。

たとえば、事務職の30歳独身女性で年収400万円の場合の保険料は約4,100円/月です。この場合、補償内容は、28万円/月の所得保障、死亡保険、入院・通院補償が含まれるため、フリーランスにとっては手厚い内容でしょう。

そもそもフリーランス協会は、フリーランスが働きやすくなる世の中を願って次のような理念を掲げています。

  • フリーランスという働き方の社会における認知向上
  • キャリア形成の支援
  • 労働環境の改善

そのほか、「フリーランス白書」と呼ばれるフリーランスの統計資料も毎年発表しているため、フリーランスとしての生き方を学びたいときに参考にしても良いでしょう。

あんしん財団

あんしん財団」が提供するのは傷害保険。あんしん財団そのものは中小企業向けに傷害保険や福利厚生サービスを提供する団体です。

一人当たり2,000円/月(うち保険料1,700円)の会費を支払うことで保険に入会でき、ケガの補償、福利厚生などの補償が受けられます。ケガの補償では業務内外にかかわらず24時間の補償があり、仕事とプライベートが曖昧なフリーランスにとってはありがたい補償内容でしょう。また、福利厚生では定期健康診断の補助金が支給されます。フリーランスは健康診断を自費で受ける必要があるため、補助金があるのは大変助かります。

具体的な金額としては死亡保険金:2,000万円(満80歳以上は1,000万円)、入院日額:6,000円、通院日額:2,000円(1日目から補償)となっているため、何かあったときの支えになるでしょう。ただし、フリーランスが加入する場合は開業届を提出して、個人事業主になっている必要があります。

日本フルハップ公益財団法人

関西地方を中心に傷害保険や福利厚生サービスを提供する「日本フルハップ公益財団法人」も、フリーランスが利用できる傷害保険を提供しています。

一人当たり1,500円/月の会費を支払うことで保険に入会でき、ケガの補償や福利厚生が受けられます。ケガは業務内外にかかわらず24時間の補償、福利厚生では人間ドック受診の補助金だけでなく、保養施設の利用や観劇への招待など大手企業かと見紛うほどの内容となっています。

具体的な金額として死亡・障害補償:最高1,000万円、入院日額:5,000円、通院日額:2,500円 (1日目から補償)となっています。補償金額はあんしん財団のものと似ていますが、会費(保険料)や保証内容(補償金額)に差異があるため、必要だと思う保険に応じて選びましょう。ただし、この傷害保険もフリーランスが加入する場合は、開業届を提出して個人事業主になっている必要があります。

全国商工会議所の休業補償プラン

全国商工会議所の休業補償プラン」は全国の商工会議所の会員向けに作られた保険です。休業前後の公的補償の差額分を補填する、という目的で作られました。

業務内外のケガ(自然災害にも対応)、通院や1年以上の長期休業にも対応、介護費用にも対応など、幅広い補償を受けられます。対象が全国の商工会議所の会員でありスケールメリットがはたらくため、他の傷害保険より保険料が安い傾向にあります。また、在宅ワーク中心のフリーランスはケガのリスクが小さいため、より保険料が安くなることもあるそうです。ただし、入会するには商工会議所に加入する必要があります。

健康保険に加入するメリット

フリーランスの人が健康保険に加入する最大のメリットは、会社員と同じく病気やケガのときもお金の心配が不要になるという点です。健康保険に加入すれば医療費の心配をせず仕事に専念できるので、さらなる収入アップを図る・プライベートの時間を充実させるなど時間の使い方に幅が広がります。

また会社員であれば有休の病気休暇制度が整っていますが、フリーランスの場合病気やケガは収入が途絶えることに直結します。

そのため収入保障のある保険では、安心して療養に専念することができるというメリットもあります。

健康保険に加入するデメリット

反対にフリーランスが保険に加入するデメリットは、どのようなものがあるのでしょうか?

国民健康保険

最も多くのフリーランスが加入する国民健康保険。保険料は前年度の所得に応じて決まるため、会社員を辞めてフリーランスになり所得が下がったとしても、会社員時代の所得に応じて保険料が決まります。そのため、初年度はフリーランスとしてなかなか稼げない状態で保険料を納めるのが経済的に厳しくなる場合もあります。

そのほか、会社員時代に健康保険では当たり前だったものが、国民健康保険では利用できないというデメリットがあります。以下に例を示します。

  • 扶養という概念がない(家族が多ければ保険料が高くなる)
  • 健康診断を無料で受けられない(年齢によって有料)
  • 傷病手当金の支給がない
  • 出産育児一時金や出産手当金が支給されない場合が多い
  • 出産前後休業・育児休業時の保険料免除がない場合が多い

健康保険(任意継続)

会社員からフリーランスになる場合、在籍していた会社(健康保険組合)の健康保険に引き続き加入でき、これを「任意継続」といいます。しかし、任意継続にもデメリットがあります。

保険料は前年度(在籍していた最終年)の標準月額報酬によって決まります。この考え方そのものは会社員と変わりませんが、会社と折半して払っていた保険料を任意継続では全額自分で払うことになります。また、退職後2年間しか加入できないことにも注意が必要です。

しかし、健康保険には扶養の考え方があるため、家族の人数によっては健康保険のほうが、国民健康保険より保険料が安くなる可能性があります。

特定の職業を対象とした健康保険(文芸美術国民健康保険など)

特定の職業のフリーランスを対象とした健康保険があります。その一例が芸術活動を行うフリーランスを対象とした「文芸美術国民健康保険」(以下、文美国保)です。国民健康保険より保険料が安くなる可能性がありますが、特定の職業のフリーランスしか加入できない、文美国保に加入するために、特定の団体に所属しないといけないなどのデメリットがあります。

健康保険に加入する手続き

会社を辞めてフリーランスになる場合は、退職日の翌日から14日以内に居住地の市区町村で手続を行い、国民健康保険証の交付を受けなければなりません。手続が遅れると、医療費の10割負担などリスクが大きくなるため、なるべく早く市区町村窓口へ行きましょう。

健康保険の任意継続は、退職前に継続するかどうかを決めておく必要があります。

  • 退職日まで2カ月以上継続して加入していること
  • 最長2年しか加入できない
  • 保険料の支払いが1日でも遅れると即脱退となる

などを総合的に考え、任意継続を選択する場合は、退職した翌日から20日以内に必要書類を健康保険組合に郵送しなければなりません。

なお任意継続の期限到達前であっても、上記の要件を満たさない場合や他企業への就職が決まった場合など、資格を喪失することがあります。その際は遅滞なく、次の保険加入の手続きを行いましょう。

民間保険会社の健康保険は、フリーランス協会やPE-BANKなどの利用とセットになっている場合が多いようです。フリーランス協会等を通して契約することになるため、詳細は事務局に確認しましょう。

まとめ

日本は国民皆保険の社会ですが、就労状況に応じ様々な健康保険があります。フリーランスは収入が不安定な場合が多く、ケガや病気に対してはより万全な備えを整えておきたいところです。

フリーランスといえば国民健康保険、と考えておけば間違いはないのですが、収入や職種によっては別の選択肢をとる方が経済的なこともあります。

民間の保険としてもフリーランス専用の商品が出ているので、自分に合った健康保険に加入すれば、安心して仕事に取り組めるでしょう。

投稿者プロフィール

廣石健悟
廣石健悟
12年の会社員経験(メーカーの機械設計など)を経てフリーライターになりました。会社員の良さ、フリーランスの良さそれぞれを実際に体験しています。記事執筆の他にインタビュー、取材(写真撮影含む)もできます。

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