年功序列・終身雇用が崩れつつある昨今の日本。
転職すれば給料が上がる可能性があると分かっていても、なかなか転職できない方も多いでしょう。
そこで、少しでも収入を増やすために有効である副業。しかし、世間を騒がせているインボイス制度は副業に影響を与える制度なのです。
この記事ではインボイス制度が副業に与える影響とインボイス制度への登録方法、そしてインボイス制度の疑問を解説いたします。
副業を頑張っている会社員の方、そもそもインボイス制度がよく分かっていない方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
インボイス制度とは
インボイス制度の説明の前に、課税事業者と免税事業者の違いを少しだけ説明します。
私たちが物やサービスを購入すると消費税を支払います。お客さん(クライアント)受け取った消費税を国に納めているのが課税事業者、納めていないのが免税事業者です。
本来、消費税は消費者から預かったものであるため国に納める義務があります。しかし、前々年度の売上が1,000万円以下の事業者は免税事業者と呼ばれ、消費税の納入が免除されているのです。
課税事業者は受け取った消費税から支払った消費税を控除して納税しています(仕入額控除)。現在は、消費税の支払先が課税事業者であっても免税事業者であっても仕入額控除ができます。
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」。この制度が開始されると、インボイス制度に登録した事業者(適格請求書発行事業者)しかインボイス(適格請求書)を発行できないようになります。
そして、前述の仕入額控除を受けるためには、「消費税を支払った」ことを証明するインボイスが必要となるのです。
しかし、インボイス制度に登録すると課税事業者になります。インボイスを発行できるようになる代わりに、売上に関係なく消費税(受け取った消費税 − 支払った消費税)を納める義務が発生するのです。
副業フリーランスのインボイス制度の影響
世間を騒がせているインボイス制度ですが、副業フリーランス(会社員など給与所得を得ながら副業で事業所得を得ている方)にどのような影響を与えるのでしょうか?
たとえ副業であっても、事業所得を得ているという点では通常のフリーランスと変わりありません。多くの副業フリーランスは売上が1,000万円以下の免税事業者と想定されますので、通常のフリーランスと同様に影響を受けます。
副業収入が少ない場合も申請する必要がある?
インボイス制度は消費税の話ですが、混同しそうな税として所得税があります。
「売上が300万円以下の副業は雑所得のため、インボイスは関係ないのでは?」
「副業の所得が20万円以下で確定申告不要のため、インボイスは関係ないのでは?」
上記二点の前半部分は事実ですが、これはあくまでも所得税の話です。消費税に関連する制度であるインボイス制度とはまったく関係ありませんので、注意してください。
申請方法と登録番号の確認方法
適格請求補発行事業者になるためにはインボイスに登録する必要があります。登録申請方法は二つあり、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を郵送する場合は管轄のインボイス登録センターに送りましょう(※1)。
オンライン(e-tax)でも申請できますが、マイナンバーカードなどの電子証明書や利用者識別番号、e-taxソフトを事前に用意する必要があります。
詳細は後述しますが、簡易課税制度を選択する場合は別途「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。これは最寄りの税務署に郵送、または持参して提出します(※2)。
登録番号は申請後に発行される「登録通知書」に記載されています。登録通知書は再発行できないため、厳重に保管してください。
また、国税庁のサイト(※3)で確認することも可能です。
(※1)国税庁「郵送による提出先のご案内」
(※2)国税庁「税務署の所在地などを知りたい方」
(※3)国税庁「インボイス制度 適格請求書発行事業者公表サイト」
インボイス制度の疑問を解説
インボイス制度は非常に複雑な制度であるため難しい言葉や概念もあります。
ここでは基本的な事項を解説いたします。
仕入税額控除って何?
仕入額控除とは、受け取った消費税から支払った消費税を控除する仕組みです。
たとえば、あなたがイラストレーターだとします。クライアント(法人)から100,000円の仕事を受注すると、消費税と合わせて合計110,000円を受け取ります。
100,000円(報酬)+10,000円(消費税)=110,000円
しかし、その仕事をするために50,000万円のPCを購入したとします。その場合、PC販売店に支払うのは、消費税と合わせて55,000円となります。
50,000円(商品代)+5,000円(消費税)=55,000円
あなたは10,000円の消費税を受け取っているため、これを国に納める必要があります。しかし、同時に5,000円の消費税を(事業において)支払っているため、国に納める税金は次のようになります。
10,000円(報酬の消費税)−5,000円(PCの消費税)=5,000円
このように受け取った消費税から、支払った消費税を控除するのが仕入額控除の仕組みです。
例では消費税を納めましたが、仮に支払った消費税の方が多い場合は還付金を受け取れます。
本則課税と簡易課税の違いは何?
消費税の計算方法には本則課税と簡易課税の二つ方法があります。
本則課税とは上記の例のように、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて納税額を計算するものです。
仕組みは単純ですが、請求・支払いの件数が多くなると事務作業が煩雑になります。
そこで次の式を用いて納める消費税を計算するのが簡易課税です。
仕入控除税額 = 売上の消費税額 × みなし税率(※4)
みなし税率は業種ごとに決まっており(※5)、表1に示す通りとなっています。
表2.簡易課税のみなし仕入率
事業区分 | みなし税率 | 業種 |
第1種 | 90% | 卸売業 |
第2種 | 80% | 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) |
第3種 | 70% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、および水道業 |
第4種 | 60% | 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業、及び第6種事業以外の事業 |
第5種 | 50% | 運輸通信業、金融業および保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除く) |
第6種 | 40% | 不動産業 |
(※4)長野税務署「消費税の基本的な仕組みから知りたい方へ」
(※5)国税庁「No.6505 簡易課税制度」
他にも簡易課税を選択するとインボイスの保存が不要であるなどのメリットがあります。しかし、本則課税と比べた時にマイナスとなっても還付金がないといったデメリットもあるため、
本則課税と簡易課税のどちらがトータルメリットがあるのかよく検討しましょう。
適格請求書発行事業者は免税事業者には戻れない?
インボイスに登録して適格請求書発行事業者になっても免税事業者に戻れます。しかし、税務署に手続きをする必要がある他、申請してから適用されるまで一定の時間がかかります(※6)。
免税事業者から適格請求書発行事業者になる影響も大きいですが(自分自身への影響)、反対もそれなりに影響が大きいものです(取引先への影響)。長い目で見てどちらのほうがメリットがあるのか、よく検討しましょう。
(※6)国税庁「[手続名]登録国外事業者の登録の取消しを求める旨の届出手続」
おわりに
インボイス制度は運用開始時期が決まっているにもかかわらず、世間や国会で物議を醸している問題です。今まで免税事業者だった方は、適格請求書発行事業者になってもならなくてもメリット・デメリットがあります。
通常のフリーランスと違い、副業フリーランスの場合は一定の所得は給与で保証されています。消費税を支払っても世の中の流れに合わせるのか、多少仕事が減ることを覚悟で煩雑は事務処理を増やさないことを選ぶのかは、あなた次第です。
投稿者プロフィール
- 12年の会社員経験(メーカーの機械設計など)を経てフリーライターになりました。会社員の良さ、フリーランスの良さそれぞれを実際に体験しています。記事執筆の他にインタビュー、取材(写真撮影含む)もできます。
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