フリーランス(個人事業主)になると年金の問題は重くのしかかってきます。国民年金だけでは会社員と違い、年金の受給額も大きく下がります。したがってフリーランスは将来に向けて、早い段階からマネープランの設計が大切です。本記事ではフリーランスに向けて、国民年金の加入方法から、国民年金以外の年金のつくり方も解説しています。控除関係もふれているので、将来が不安な人や気になっている人は、ぜひチェックしてみてください。
フリーランス向けの年金とは
フリーランス向けの年金には国民年金があります。フリーランスの置かれた状況を理解するためにも、会社員が入る厚生年金を比較用に記載しています。またフリーランスならではの節税メリットについても理解しましょう。なお、公的年金(国民年金)は老齢基礎年金、遺族年金、障害年金をわかれますが、この記事では老齢期年金を取り上げます。
国民年金とは
日本の年金は20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金(基礎年金)と、会社員が加入する厚生年金の2階建ての構造となっています。フリーランスは会社員とちがって国民年金のみの加入なので、老後に受け取る年金が少なくなります。保険料は毎年変わりますが国民一律であり、2023(令和5)年度においては16,520円です。厚生労働省によると20歳から60歳までの40年間すべて納付していれば、支給開始の65歳から月額66,250円受給できる予測となっています。(2023(令和5)年度時点)
家計の支出を調査したところ65歳以上の単身の無職世帯では、平均132,476円となっており、国民年金だけではまかなえないような金額です。
参考:総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)」
繰下げ受給について
国民年金は65歳から受給開始ですが、年金受給者になる方の中には、受給開始年齢を遅らせられる方もいるでしょう。その場合、繰り下げ受給の手続きをすることで、開始時期を繰り下げて受給できます。繰り下げすると、繰り下げた月数×0.7%の計算で生涯増額されて支給されます。2020(令和2)年の年金制度改正によって2022(令和4)年4月からは、75歳まで繰り下げられるようになりました。
厚生年金について
フリーランスが置かれた年金の状況をわかりやすくするためにも、会社員の厚生年金と比較してみましょう。厚生年金は会社員が国民年金に加えて加入する年金のことで、保険料は毎月の給料に対して定率で、給料から天引きで納付しています。また保険料の半分は会社負担です。厚生労働省によると、2020(令和2)年度の年金受給額は月額144,982円なので、フリーランスよりも恵まれた環境といえるでしょう。
参考:厚生労働省「厚生年金・国民年金事業の概要(令和4年度)」
ほかにも配偶者が扶養に入っている場合は第3号被保険者となり、保険料を払う必要がありません。一方のフリーランスの場合はこの制度が適用されず、配偶者も国民年金の納付が必要となります。
このように会社員に比べると不利な点もあるフリーランスですが、節税面でのメリットはあります。
節税について
フリーランスになると会社員のころとは違い、自分で確定申告を行う必要があります。確定申告の際には、国民年金の納付額を所得から控除できます。このような節税面でのメリットはうまく活かすようにしてください。なお、確定申告は簿記の知識をもって対応します。もちろん簿記の資格を持っていればよいですが、基本的な知識は学習して活用する方がよいかもしれません。また、確定申告には青色申告と白色申告がありますが、青色申告の方が税制面で優遇されています。
つぎからはフリーランスの道を選んだ場合に、国民年金にはどう加入するのかを解説していきます。
国民年金の加入方法と基礎知識
会社員からフリーランスになった場合、厚生年金から国民年金への加入手続きが必要です。ここでは加入方法や国民年金保険料免除制度についても解説しています。
国民年金の加入方法
加入手続きに必要な書類は以下の通りです。
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
- 退職を証明できる書類(離職票、退職証明書、健康保険喪失証明書、雇用保険被保険者離職証明書など)
- 身分証明書(運転免許証やパスポート)
- 印鑑(本人が手続きする場合は不要)
以上の書類を持って、最寄りの市区町村役場の国民年金窓口で手続きを行います。加入手続きは原則、退職から14日以内です。書類がまだ手元にない場合は、退職した日付がわかるものや、勤めていた会社の電話番号や退職年月日を、窓口で伝えるようにしましょう。
国民年金保険料免除制度について
フリーランスになって前年の所得が一定以下の場合は、保険料を納めることが困難になることもあるでしょう。その場合は本人から申請し、許可されれば保険料の納付が免除されます。免除される金額は所得によって異なり、全額、4分の3、半額、4分の1の4種類です。なお1~6月の期間に申請する場合は、前々年の所得をもとに決まるので注意しましょう。
また、免除された分だけ将来もらえる年金額が少なくなることは理解してください。あとから納付(追納)すると年金額を戻せるので、収入が増えてきた段階で追納するようにしましょう。
フリーランスのための国民年金以外の対策
国民年金だけでは老後が心配となるフリーランスにとって、国民年金以外の年金づくりについて解説します。さまざまな制度があるので、自身に合ったものを選びましょう。
国民年金基金
国民年金に上乗せできる年金で、掛け金が全額所得控除となり、節税面のメリットがあります。具体的には掛け金の分だけ課税所得が少なくなり、支払う所得税が少なくなるのです(以下同様)。
掛け金は選択した給付の型や加入口数、加入時の年齢、性別によって決まります。上限金額は月額68,000円までで、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している場合は、合算した金額です。加入してから増減が可能なことと、一時的に引き落としを停止することもできます。ただし自己都合で脱退できない点は注意が必要です。また、国民年金未納の方や、納付免除されている方は加入できません。
なお、終身年金であり死亡するまで受給できます。また、国民年金基金は後述のiDeCoと異なり資産運用ではないため、掛け金に対する給付額が決まっています。しかし、後述する付加年金制度と重複できないことは理解しておきましょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)について紹介します。iDeCoは掛け金を自身で積み立てて金融商品を運用して、60歳以降に受け取れる年金です。国民年金基金と合算した金額で、毎月上限68,000円まで積立が可能で、全額所得控除可能です。またiDeCo加入中に発生した金融商品の運用益は非課税ですが、給付時には税金がかかる場合があります。
給付方法は年金で受け取る場合は公的年金等掛金控除、一時金で受け取る場合退職所得控除として扱われます。ただし金融商品ですので運用リスクは自身で負うことと、運用実績によっては給付額が変わることは理解しておきましょう。もちろん元本割れのリスクもあります。しかし、iDeCoでは投資商品を自ら選択するため、たとえ元本割れしてもそれは加入者本人の責任になります。中には元本割れしない商品もありますが、リスクとリターンは表裏一体のため、リスクが小さいということはリターンも小さいことを覚えておきましょう。また手数料がかかることや、取扱金融機関によっては口座管理料も発生します
国民年基金は掛け金に対する受給額が決まっていましたが、iDeCoの場合は運用結果によって国民年金基金より受給額が高くなることも安くなることもあります。しかし、いずれも長期間加入する方が高いメリットを期待できます。資産運用をともなうiDeCoの場合はなおのことです。
iDeCoは老後の生活の補填という意味合いがあるため、60歳まで解約できません。強制的に老後資金を積み立てられるといえば聞こえはいいですが、その間ずっと資金を拘束されてしまいます。そのため、急にまとまったお金が必要になった場合でも、積み立てたiDeCoを現金化することはできません。その代わり、積立額の変更や停止はできます。
付加年金
付加年金は国民年金に月額400円を上乗せして払うことで、将来の年金が増える制度です。付加年金の年金額の計算は200円×付加保険料納付月数なので、2年で元が取れる計算です。そのため、2年(24か月)以上年金を受給できれば金銭的なメリットがあります。しかし、前述の繰り下げ需給制度を利用する方は、年金支給開始年齢が遅くなります。人生はどうなるか分かりませんが、付加年金に加入するなら2年以上年金を受給できるようにしましょう。
(一例紹介)
納付金額:400円×360カ月(30年)=144,000円
年金額:200円×360カ月=72,000円(年額)
納付金額についても全額控除対象ですが、国民年金基金と併用できない点は注意しましょう。
小規模企業共済
フリーランスの退職金制度ともいえる小規模企業共済について解説します。小規模企業共済とは、フリーランスを廃業したときのために積立ができる制度です。毎月の掛け金は1,000円から70,000円までで500円ずつ設定可能で、金額と加入期間によって共済金額を受け取れます。掛け金は小規模企業共済等掛金控除の対象です。解約して一括で受け取る際は退職所得控除となり、年金として分割して受け取る場合は雑所得となり節税メリットがあります。ただし12ヶ月未満で解約した場合は、共済金は掛け捨てとなるので注意しましょう。また20年未満で自己都合により解約した場合は、解約手当金が掛け金を下回ります。
小規模企業共済は退職金という意味合いがあるため、廃業時にまとまったお金を受け取れるのが特徴。次に掛け金と受取金額の例をしめします。
- 月額6万円×10年(120か月)を掛けると、774万円受け取れる(差額:+54万円)
- 月額3万円×20年(240か月)を掛けると、835万円受け取れる(差額:+115万円)
このようにトータルの掛け金は同じでも、掛ける期間が長いほど金銭的なメリットが大きくなるのです。また、利息と元本の比率は前者の例で7.5%、後者の例で15.9%と、決して少ない利息ではないことを覚えておきましょう。
長い間フリーランスとして働いていると、経営が不安定になりまとまったお金が必要になることもあるでしょう。iDeCoでは途中でまとまったお金を引き出せませんが、小規模事業共済なら事業資金や関連資金の融資「一般貸付」や、病気やケガそれに災害時に働けなくなったときの融資「傷病災害時貸付」を受けることも可能です。いざというときには、これらの融資を検討してみてもよいかもしれません。
フリーランスの年金 Q&A
副業による収入があると、厚生年金保険料があがるか?
一口に副業といっても、さまざまな勤務形態があります。たとえば、パートやアルバイトなど給与所得(時給)を支払われる非正規社員として雇用される場合を想定しましょう。勤務時間や勤務人数の兼ね合いで社会保険の適用条件を満たした場合には、副業先の会社でも社会保険に加入することになります。この場合、おのずと厚生年金保険料が上がってしまいます。しかし、社会保険の加入条件を満たさない程度の勤務である場合は、新たに社会保険に加入することなく、厚生年金保険料が上がることはありません。
一方、上記のような雇用契約ではなく、業務委託契約で仕事するとしましょう(フリーランスという働き方ではこちらが一般的)。業務委託契約で働く場合は、本業の会社で厚生年金保険に加入していれば国民年金に加入する必要はなく、厚生年金保険料(年金保険料)が上がることはありません。
副業フリーランスは国民年金基金や小規模企業共済に加入できるか?
「副業」フリーランスの方は、基本的に本業の仕事があり、勤務先の会社で厚生年金に加入しているでしょう。その場合は、残念ながら国民年金基金や小規模企業共済に加入することはできません。なお、会社員(副業フリーランス)であったも、2022年度よりiDeCoに加入できるようになりました。企業型確定拠出年金(企業型DC)との併用も可能ですので、老後対策をより強化した方は検討してもよいでしょう。ただし、企業型DCにおいて自ら拠出金を追加する「マッチング拠出」を行っている方もいるでしょう。マッチング拠出を行っている場合は企業型DCとiDeCoの併用はできませんので、注意してください。
参考:MUGF 会社員がiDeCoに加入するには?加入条件やメリット・デメリットをくわしく解説
大学生の副業フリーランスが気を付けることはある?
最近では大学生でありながら副業でフリーランスの仕事をする方もいます。大学生が副業フリーランスとして稼ぐ場合は年収に気を付けなければなりません。
親が厚生年金に加入している場合、大学生の社会保険料は基本的に扶養の対象でしょう。そのため、大学生自ら社会保険料を支払う必要がありません。しかし、副業フリーランスの仕事によって年収が130万円を超えると、社会保険料の扶養の対象でなくなります。そのため、大学生であっても20歳を超えていれば国民年金の納付義務が発生しますので、ご注意ください。また、学生は一定期間年金の納付を猶予してもらえる「学生納付特例制度」がありますが、所得制限があるため社会保険料控除等を含めて年収が128万円未満でないといけません。
フリーランスが厚生年金に加入する方法はあるか?
前述の通り、国民年金保険の受給額は非常に安く、それだけで生活できる金額ではありません。そのため、フリーランスであっても厚生年金に加入したい方もいるでしょう。実は、フリーランスが厚生年金に加入する方法があります。自ら法人を立ち上げ、その会社の社員になればよいのです。もちろん、法人の立ち上げ・維持には相応の費用と手間がかかります。また、法人を立ち上げて社員になると、厳密にはフリーランスと言えないでしょう。しかし、法人を立ち上げても自ら営業して案件を獲得し、クライアントに納品して(あるいは所定の成果を出して)報酬を得るというビジネスモデルは変わらないのです。
法人化すれば厚生年金に加入できます。しかし、一般的な会社員が厚生年金に加入するときとは異なる注意点があるのです。一つは全額自己負担となること。会社員は厚生年金保険料の半額を会社が負担してくれます。この原則は変わりませんが、自ら法人を立ち上げた場合は、社員個人としての支払いも、会社としての支払い(加入者との折半分)も、事実上、自ら支払うことになるのです。また、厚生年金保険料の支払額を抑えるため、自らの給与(役員報酬)を最低レベルまで下げる場合もあるでしょう。たしかに厚生年金保険料の支払額は最低限になりますが、将来もらえる受給額も最低限になってしまいます。
年金はあくまでも老後の生活の支えの一つです。目先のことばかり考えるのではなく、受給時のことも考えて給料(役員報酬)を決めましょう。
法人化して厚生年金に加入すると、扶養家族の年金保険料が事実上無料(扶養制度)になります。厚生年金への加入を目的に法人化するフリーランスはいないと思いますが、いざ法人化したときには、このようなメリットがあることを覚えておいてもよいかもしれません。
まとめ
フリーランスに関する年金について解説してきました。会社員よりも老後の心配が残ることもあるでしょう。しかし紹介したようなiDecoや国民年金基金、小規模企業共済などの制度を利用すれば、いざというときのために備えることができます。これからフリーランスをめざす人は、紹介した国民年金の加入手続きを参考にしてください。また将来のことを考えて、マネープランの設計も進めていきましょう。なお、今回は解説しませんでしたが、民間の保険会社が販売する個人年金も多数あります。気になる方は調べてみてください。
投稿者プロフィール
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私は10年以上にわたり、デザイナーとしてのキャリアを積んできたフリーランスデザイナーです。デザインの魔法に魅了され、クリエイティブなアイデアを実現することが私の情熱です。
さまざまなデザインプロジェクトに携わり、ロゴ、ウェブ、印刷物、パッケージなど、多岐にわたる分野での経験を積んでいます。美しさと実用性を融合させ、クライアントのビジョンを実現するお手伝いを心から楽しんでいます。
クライアントとの協力を大切にし、オープンなコミュニケーションを通じて共にプロジェクトを築き上げます。納期を守り、高品質な成果物を提供することをお約束します。
私のデザインはビジネスに魅力を与え、ブランドを輝かせます。クリエイティブなアプローチと柔軟性を大切にし、クライアントの期待をいつも超えることを目指しています。一緒に素晴らしいプロジェクトを実現しましょう。
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